2013年12月11日水曜日

環境中を移動する際に生じる景色の流れの認識特性


環境中を移動する際に生じる景色の流れの認識特性について、成人を対象に実施した研究の成果が英国の学術雑誌「Vision Research」に掲載されました(2012年4月) 

 

【研究概要】

 私たちが身体を動かすと、それに応じて視界に映る景色もダイナミックに変化します。例えば、まっすぐ前を向いて前進すると、目に映る景色は放射に拡がるように流れていき、反対に後ろへ下がれば、景色は放射状の軌道にそって縮むように見えます。私たちの脳は、そのような目に映る景色の流れを視覚的な動きとして分析することによって、私たち自身がどこに向かって、どれくらいの速さで動いているのかを計算しています。その一方で、普段の生活で身体を動かしている時に、そうした景色の流れが意識されることはあまり無いように思われます。こうした矛盾について実験心理学的なアプローチを用いて検討しました。
 実験では、11名の実験協力者にメガネ型のコンピューターディスプレイを装着した状態で、車いすに座ってもらいました。車いすを前後に揺すると、それと同期してディスプレイ上には簡易なCGで再現された景色の流れが映ります。このとき、車いすの動きと対応した、正しい方向の景色の流れが映る条件と、車いすの動きと対応しない、本来とは逆向きの景色の流れが映る条件を設け、それぞれの条件で映像がどのように認識されるのかを調べました。その結果、協力者間で個人差はあるものの、車いすの動きと対応した正しい景色の流れが提示される条件よりも、そうではない条件で、景色の流れの詳細を認識しやすいという傾向が示されました。こうした結果は、私たちが移動しているときには、それと対応して生じる景色の流れに対する主観的な認識が抑制されることを意味します。
 私たちの脳が、身体運動の状態を把握するために景色の流れを積極的に利用する一方で、私たちの主観的な意識上では、そうした景色の流れについての認識が抑制されているようです。こうした認識特性は、移動中に生じる視覚的な動きの見え方を低減することによって、常に動的に変化する目に写った景色から外界の安定した構造を見出し、それを認識することに役立っていると考えられます。

【書誌情報】

【その他】

本研究は、市原茂先生(首都大学東京・名誉教授、株式会社メディア・アイ 感性評価研究所・所長)との共同研究です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。